研究テーマ1:有機化合物の生化学的変換

 この研究室では、安価に入手できる酵母を有機合成に利用する研究を行っています。酵母の還元力を利用してある有機化合物を還元すると、立体選択的にある一つの立体構造のみを持つ化合物が得られます。この技術と化学合成の技術とを組み合わせて生理活性を持つ化合物を立体選択的に合成する事を目的にしています。このように、生物の化学的能力と化学合成の技術とを組み合わせて、ある化合物を得る工程をハイブリッドプロセスと言います。

 この研究室では、特に、生物体内に微量しか存在しない生理活性物質の合成研究を行っています。次に、研究の例を示します。


1.新たに発見された酵母還元を利用した(R)-6,7-dihydro-5-HETE lactone と(S)-6,7-dihydro-5-HETE lactoneの合成研究
 Journal of Chemical Society, Perkin Trans I (19), 2156-2160 (2002)

 我々の研究室で発見された酵母還元は、ラセミ体のケトエステル1を酵母還元すると高い光学純度を持つ2と3が得られるというものです。この反応を利用して、炎症作用物質である5-oxo-ETEの代謝産物である(R)-6,7-dihydro-5-HETE lactone と(S)-6,7-dihydro-5-HETE lactoneの作りわけに成功しました。今後の炎症作用研究に寄与するものと期待されます。


2.5-HETE合成中間体の酵母還元生成物からの合成
 New method for synthesizing the intermediates to 5-HETE from yeast-mediated reduction products by employing Baeyer-Villiger oxidation with complete retention of enantiomeric excess., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 67(9), 1959-1969 (2003)

 酵母還元生成物である1及び2からそれぞれ(5R)-HETE、(5S)-HETEの合成中間体である化合物3、4を合成しました。光学純度は99%ee以上でした。HETEは、体内で炎症作用に関与する重要な化合物で生体には微量しか存在しません。この合成は、HETE類の生物活性研究に貢献すると考えられます。


3.Methyl (2-oxocyclohexyl)acetate の酵母還元を利用した、(+)-, (-)-dihydropinidine と (+)-, (-)-epidihydropinidineの合成
 Syntheses of (+)- and (-)-dihydropinidine and (+)- and (-)-epidihydropinidine by using yeast reduction of methyl (2-oxocyclohexyl)acetate., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 68(3), 676-684 (2004)

 (+)-, (-)-Dihydropinidine と (+)-, (-)-epidihydropinidineが、ラセミ体のmethyl (2-oxocyclohexyl)acetateの酵母還元生成物である 1 及び 2 から合成されました。この合成研究によって、化合物1及び2の C-1 位の光学純度は99% eeである事が明らかになりました。


4.消炎活性を有するアロペリンの、合成中間体の合成
 Synthesis of an optically pure synthetic intermediate of aloperine from a yeast-reductive product.Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 69(8), 1589-1594 (2005)

 酵母還元生成物1から99%eeの光学純度を有する化合物2を合成しました。化合物2からは、天然アロペリンの鏡像異性体が得られます。また、酵母還元生成物3から99%eeの光学純度を有する化合物4を合成しました。化合物4からは、天然アロペリンが得られます。この合成方法は、99%eeの高い光学純度を有するアロペリンの新しい合成法です。アロペリンの生化学的研究に貢献する研究です。


5.ジャコウネコ香気成分の合成
 Synthesis of a glandular secretion of the civet cat, (2S,6S)-(6-methyltetrahydropyran-2-yl)acetic acid and its enantiomer, by using the yeast-reduction product and recovered substrate from yeast reduction., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 70(3), 712-717 (2006)

 酵母還元生成物1から、天然のジャコウネコ香気成分の合成を行いました。また、酵母還元の回収原料3からジャコウネコ香気成分の鏡像異性体4を合成しました。いずれも99%ee以上の光学純度でした。


6.ゴニオジオールのすべての立体異性体の合成と抗菌活性
 Syntheses of all stereoisomers of goniodiol from yeast-reduction products and their antimicrobiological activity., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 72(9), 2342-2352 (2008)

Goniodiol の立体異性体の合成計画

 ゴニオジオールの8つのすべての立体異性体を合成し、抗菌活性を比較しました。すべての立体異性体の合成のために用いた原料は、酵母還元によって得られた高い光学純度を持つ化合物です。酵母還元によって得られる立体と、不斉エポキシ化、不斉グリコシル化を立体構築に用いました。


Goniodiolの立体異性体の抗菌活性 (MIC, mM)

 特に、立体異性体1と5に高い活性が観察されました。


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