研究テーマ3:リグナン類の活性研究

 合成によって得られたリグナン類の活性研究を他の研究室との共同研究で行っています。生物活性試験には、立体選択的に合成した化合物を用いています。ここでの生物活性試験のキーワードは、立体構造と生物活性との関係です。生物資源中には立体異性体の混合物として含まれているリグナン類を、有機合成によって立体異性体を作り分けた後に生物活性試験を行います。この事によって、これまでに知られていなかったリグナン類の生物活性が明らかになり、リグナン類の構造と生物活性との関係が示され、新たな生物資源の有効利用につながると考えられます。
 また、リグナン類は植物性食品中にも含まれているため、この研究は食品の機能解明にも貢献可能です。
 抗酸化活性に関しては、フェノール性水酸基があれば活性を有する事は分かっていましたが、その他の構造と活性との関係は未知でした。我々の研究によって、リグナン類の基本構造と抗酸化活性との関係が初めて明らかになり、生物資源の抗酸化剤としての有効利用につながります。
 抗酸化活性を有するリグナン類の実用化試験として、経済産業省、農林水産省から研究費の援助を受け、ハマチ血合い肉の褐変防止のためのリグナン、特にマタイレジノールの利用研究を行っています。           

共同研究者は、以下の通りです。
  抗酸化活性:増田俊哉先生(徳島大学 総合科学部)、菅原卓也先生(愛媛大学 農学部)
  細胞毒性活性、免疫活性:菅原卓也先生(愛媛大学 農学部)
  動物試験による栄養化学的研究:岸田太郎先生(愛媛大学 農学部)
  抗かび活性試験:秋山浩一先生(愛媛大学 総合科学研究支援センター樽味ステーション)
  抗菌活性:丸山雅史先生(愛媛大学 農学部)
  ハマチ血合い肉の褐変防止:四宮陽一氏(宇和島市産業経済部水酸課水産係)


1.酸化型フロフランリグナンの合成と抗酸化作用
 Synthesis and antioxidant activity of oxygenated furofuran lignans., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 68(1), 183-192 (2004)
 この研究は、徳島大学の増田俊哉先生との共同研究です。

 自然界では、多くの種類のフロフラン型リグナンが生合成され、食品中にも含まれており、抗酸化活性を持つ事が知られています。フロフラン型リグナン類は、異なった酸化のパターンを持っていますが、酸化のパターンと抗酸化活性との関係は知られていません。そこで、多数のフロフラン型リグナンを合成し、抗酸化活性を測定しました。その結果、3級水酸基を持つものは持たないものに比べて、活性が低下する事が分かりました。これは、フェノール周辺以外の部分構造が抗酸化活性に影響を与えることを示した初めての研究です。


2.olivil型リグナンの抗酸化活性
 Synthesis and antioxidant activity of olivil-type lignans., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 69(1), 113-122 (2005)
 この研究は、徳島大学の増田俊哉先生との共同研究です。

 olivilとは、オリーブに含まれるリグナンです。このolivilの類似体を合成し抗酸化活性を比較する事によって、三級水酸基が抗酸化活性を減少させる事、二つのフェノール性水酸基が抗酸化活性に与える影響が異なる事が分かりました。


3.フェノール性リグナンのベンジル位の酸化の程度と抗酸化活性との関係
 Effect of benzylic oxygen on the antioxidant activity of phenolic lignans., Journal of Natural Products, 68(10), 1459-1470 (2005)
 この研究は、徳島大学の増田俊哉先生との共同研究です。

 ベンジル位の酸化の程度が異なるテトラヒドロフラン型リグナンを合成し、抗酸化活性を比較しました。ベンジル位の酸化の程度が増すほど、ラジカル消去活性、ヒドロパーオキシド生成抑制活性が低下する事が示されました。ベンジル位が抗酸化活性に重要な役割を果たしている事が分かりました。


4.ブチロラクトン型リグナンのベンジル位の酸化が抗酸化活性に与える影響
 Radical and superoxide scavenging activities of matairesinol and oxidized matairesinol., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 70(8), 1934-1940 (2006)
 この研究は、菅原卓也先生との共同研究です。

 酸化された場所の異なる非対称なブチロラクトン型リグナンを合成した後、抗酸化活性を比較しました。その結果、ラジカル消去活性の強さは以下のようにな順になる事が示されました。この結果は、フリーなベンジル位が高い活性に重要である事を示しています。また、非対称なラクトン型リグナンの場合、酸化されている場所が活性の強さに影響を与えている事が分かりました。


5.ベンジル位の酸化の程度が細胞毒性活性に与える影響
 Effect of benzylic oxygen on the cytotoxic activity for colon 26 cell line of phenolic lignans., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 70(12), 2942-2947 (2006)
 この研究は、菅原卓也先生との共同研究です。

 立体選択的に(-)-matairesinolが最も高い活性を持つ事が分かりました。立体選択的合成によって得られたベンジル位の酸化の程度が異なる関連化合物の試験結果から、ベンジル位の酸化は一般的に活性を低下させる事が分かりました。


6.4置換テトラヒドロフラン型リグナンの抗菌活性
 Antibacterial activity of a virgatusin-related compound., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71(3), 677-680 (2007)
 この研究は、丸山雅史先生との共同研究です。

 下に示したような合成によって得られた天然物関連化合物である4置換テトラヒドロフラン型リグナンがグラム陽性菌に対して立体選択的に抗菌活性を示しました。また、作用機構は、膜破壊である事が分かりました。


7.4置換テトラヒドロフラン型リグナンの抗カビ活性
 Antifungal activity of tetra-substituted tetrahydrofuran lignan, (-)-virgatusin, and its structure-activity relationship., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71(4), 1028-1035 (2007)
 この研究は、秋山浩一先生との共同研究です。

 4置換テトラヒドロフラン型リグナンである(-)-virgatusinが炭疽病菌に対する抗菌活性を有する事が分かりました。活性は立体選択的で(+)-virgatusinにはほとんど活性は認められませんでした。さらに誘導体を合成して構造と活性との関係を調べた結果、3'位の置換基がなくても天然物と同程度の活性を示す事が分かりました。


8.ベンジル位の酸化の程度と抗微生物活性との関係
 Antimicrobiological activity of lignan: effect of benzylic oxygen and stereochemistry of 2,3-dibenzyl-4-butanolide and 3,4-dibenzyltetrahydrofuran lignans on activity., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71(7), 1745-1751 (2007)
 この研究は、秋山浩一先生、丸山雅史先生との共同研究です。

 立体選択的に高い光学純度で得られた、ベンジル位の酸化の程度が異なる2,3−2置換ブチロラクトン型リグナン及び、3,4−2置換型テトラヒドロフラン型リグナンの抗微生物活性を調べた結果、化合物1,2がグラム陽性菌に対する抗菌活性を、化合物1がゴマ葉枯病菌に対する抗かび活性を示しました。

Ar= 4-hydroxy-3-methoxyphenyl


9.リグナン類のベンジル位の構造と抗酸化活性との関係
 Effect of the benzylic structure of lignan on antioxidant activity., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71(9), 2283-2290 (2007)
 この研究は、菅原卓也先生、増田俊哉先生との共同研究です。

 ベンジル位の構造が異なるリグナン類を合成し、抗酸化活性を比較しました。その結果、酸化されていないベンジル位を2つ持つ化合物1及び2が高い抗酸化活性を示しました。ベンジル位の構造が抗酸化活性の強さに影響を与える事を示した研究です。前述の1)から4)の結果とともに、リグナン類を含む植物資源の抗酸化剤としての有効利用のための重要な情報です。


10.9-O,9'-O-demethyl (+)-virgatusinの構造と抗菌活性との関係
 Structure-antibacterial activity relationship for 9-O,9'-O-demethyl (+)-virgatusin., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 72(7), 1032-1037 (2008)
 この研究は、丸山雅史先生との共同研究です。

 化合物1に抗菌活性が認められたため、ベンゼン環上の置換基を変換した誘導体を合成し活性を調べましたが、高い活性を有するものはありませんでした。しかし、1の2つの水酸基をアミノ基に変換した化合物2には1よりも高い抗菌活性が観察されました。


11.(-)-secoisolariciresinol, (+)-secoisolariciresinolおよびmeco-secoisolariciresinolの免疫活性との関係
 First stereoselective synthesis of meso-secoisolariciresinol and comparison of its biological activity with (+) and (-)-secoisolariciresinol., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71(12), 2962-2968 (2007)
 この研究は、菅原卓也先生との共同研究です。

 socoisolariciresinolは、植物性食品に含まれるリグナン類で、その機能はこれまで未知でした。まず、考えられる3つの立体異性体を合成した後、免疫活性を検討するためIgMの生産量を調べました。IgMの量が増えると、免疫が増強されることを意味します。グラフから分かるように、(-)-体と(+)-体にIgMの量を増やす効果があることが分かりました。

 さらに、菅原先生の研究によって(-)-secoisolariciresinolの脂肪細胞に対する活性が明らかになりました。Bioscience Biotechnology, and Biochemistry, 73(1), 35-39 (2009)


12.ブタン型リグナン類の抗酸化活性
 Structure-antibacterial activity relationship for 9-O,9'-O-demethyl (+)-virgatusin., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 72(7), 1032-1037 (2008)
 この研究は、増田俊也先生との共同研究です。

 ブタン型リグナンであるsecoisolariciresinol、dihydroguaiaretic acid、ベンジル位が酸化された7,7'-oxodihydroguaiaretic acidを合成し、抗酸化活性を比較しました。その結果、これまでの我々の研究結果と同様に、ベンジル位の酸化が抗酸化活性を低下させることが分かりました。すなわち、7,7'-oxodihydroguaiaretic acidの化学的抗酸化活性が最も弱いことが分かりました。
 この研究では、酸化酵素であるlipoxygenaseの阻害活性の測定も行いました。その結果、(-)-dihydroguaiaretic acidと(+)-dihydroguaiaretic acidに阻害活性が観察され、両鏡像異性体間で活性の差は認められませんでした。

 この研究は、経済産業省からの援助を受けました。



13.ブチロラクトン型リグナンである(-)-matairesinolによるハマチの血合い肉 褐変防止効果
 Inhibition of the discoloration of yellowtail dark muscle by lignan., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 73(7), 1718-1721 (2009)

 ハマチの血合肉は最初は薄い赤色なのですが、時間経過ととともに黒く変化します。これを褐変といいます。黒くなると、商品価値が低下するためハマチの出荷、売り場において大きな問題になっています。愛媛県はハマチの養殖が盛んですが、この褐変問題を解決しないと海外への輸出が伸びません。そこで、経済産業省の援助を受け、ハマチの血合い肉褐変防止のための研究を行いました。
 血合い肉の褐変は血液中のミオグロビンが酸化されメトミオグロビンに変化することによって起こります。我々の研究室では、植物性食品中に含まれるブチロラクトン型リグナンである(-)-matairesinolが抗酸化活性を有することを見出しました。そこで、(-)-matairesinolの50%アルコール溶液を血合い肉に塗布したところ、12時間後まで褐変を防止することが分かりました。

 写真は、(-)-matairesinolの水―アルコール溶液2%、1%、0.5%を塗布した後、7度で12時間置いたものです。すべての濃度で、きれいな赤色が残っています。

 次に、赤色をX値およびa*値という数値で表し、時間による変化を下図に示しました。アルコールだけ塗布した血合肉のX値およびa*値は12時間後には約半分に低下しているのに対して、(-)-matairesinolを含む50%アルコール溶液を塗布した血合い肉では血合肉のX値およびa*値が12時間後までは低下せず、その後もアルコールだけのものよりも高い値を保っています。このことから、植物性食品に含まれる(-)-matairesinolは血合い肉の褐変防止効果を有することが分かりました。

■, 50% (v/v) EtOH; ▲, 0.5% (-)-matairesinol in 50% (v/v) EtOH
◆, 1% (-)-matairesinol in 50% (v/v) EtOH; ●, 2% (-)-matairesinol in 50% (v/v) EtOH.

  測定データの処理は、岸田太郎先生にお願いしました。


14.ブタン型リグナンの抗微生物活性
 Antimicrobial activity of stereoisomers of butane-type lignans., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 73(8), 1806-1810 (2009)

 ブタン型リグナンの立体異性体を合成し、抗菌活性および抗かび活性を調べました。その結果、(+)-dihydroguaiaretic acid ((+)-DGA)に最も高い抗菌活性が観察されました。また、meso-dihydroguaiaretic acid (meso-DGA)に最も高い抗かび活性が観察されました。


Table. ブタン型リグナン類の抗菌活性(MIC, mM)


Table. ブタン型リグナンの0.25 mMでのAlternaria alternataに対する成長率


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